夜硝子のつめたさ頬で吸いながらひとひらの燃える蝶のこと考えている
かみあとは耳へ首へと這っていくかなしみは火と思ったりする
あの月が燃えたら花の蕾だけあつめて降らす終演のごと
すべて死は柔らかな褥と思う夜きみのせいならやすらかだろう
夢だね、と夢の中で口に出す水晶の針折りながら
花の名前も知らずにいたいもう一度すべてすべてをきみが教えて
夜と朝に隙間がないように愛も呪いも紙一重だね
祝福と名のつくものを君はすべてうばってひかる百合の森では
触れてもあなたに触れえない肉体はあるけれど僕は幽霊
朝へは糸をわたして歩いているつめたい夜は膚には針
苦き舌糖衣とろかし丸薬と君とは似ている本性と嘘
鱗粉を目蓋へ乗せる指先に死の光 君は蝶にはなれないよ
てをつなぎみる天蓋に嘘の星かぞえたきみのやさしさも嘘
敗因は幼さだったあとはもうすべて残り香消せないだけの
いいところなどひとつもない夢に似た嘘つける以外は
舌先は天鵞絨に似る血の色を君の傷から掬ってみれば
血のいろが青色ならよかったね 夜に溶けては浄化されたい
人間に輪郭があるということきみになぞられたしかめる夜
永遠と過去はひとしい すべからく額装してね、絵画みたいに
「未完成それもひとつのうつくしさ」というあなたの完璧な笑み
すべからく血は心臓へかえってゆくね 僕のなかにもちいさなおうち
手放せば軽くなるって知っていることの重さだ これは宗教
こんなにもすべてくるまれ撫ぜられて吹き抜けていく足りなさは何
目を閉じてひらいて世界がなかったら とおもう瞬間の億光年
もういちど生まれてみたいその指が奏でつらねる音楽として
レース襟以外纏ってない君の鎖骨の舟へ花弁を置く
これこそが光と影の見本だねカーテンレース模様の横顔
花びらがひらくときだけ見ていたい永遠なんかあるというなら
むきだしの膚へ蔓の身をのばし撫ぜてゆくよう夜のふあんは
てのひらは触れも祈りもできるのにそのたましいのすくい得ぬひと
瞬きでシャッターをきりかみさまに送っているの祈りのかわり
象るということはただやわらかな箱にいれてはとりこぼすこと
君の脱ぐシャツにうずもれこここそがあまいにおいのしているお墓
指ゆびの山脈みたいなかさなりのふたりでひとりぶんのおいのり
蛋白石のファインダーごしにいてきみは何いろにでもひかる偶像
やわく笑むきみのうしろに孔雀みえあまたの瞳のいざなうめまい
雛鳥にするように虫はこぶ夢 きみの体は羽化の墓場になって
とおくへは裸足でゆく湿原とすべての声の庭をわたって
だいなしにしたいね 薔薇をぬかるみにおとしてねむるひそかな悪意
写真にはのこせなかった僕たちはひとつの光になりそこなって
見えないねくらがりでは血をながしてもしずかな無傷のあるばかりで
果てということばたよりにたぐりよせ夜の端っこ ごらん、朝だね
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